先日、現行8シリーズのグランクーペに試乗する機会を得たので、そのレビューをしてみたい。例によってあまり細かい機能のレビューよりも走行性能にフォーカスを当て、以前乗っていたポルシェ パナメーラとの違いも視野にレポートしてみたい。
BMWの8シリーズというのは、少年時代から私にとって憧れのクルマのひとつだ。記憶を思い起こせば、外車なんてまず見かけることがなかった私の実家の近所の歯医者さんの前に、ある日、先代8シリーズが停まっていた。
少年時代の私はひと目見るやいなや、そのボディのエレガントさや大きさ、そして「8」という数字の大きさに驚き、こんなに高級なBMWがあるんだ!と立ち止まって感動したことを昨日の事のように覚えている。
先代の8シリーズ
それ以来、先代8シリーズはいつも気になっていたクルマのひとつだった。そして、現行8シリーズが出た時はとても嬉しく、何度も試乗しに行こうとしたことがある。(近所のBMWは行くと、営業の圧が凄いので気軽に行きにくいw)
そして、今回、運良く8シリーズグランクーペの試乗機会を頂いたのだ。しかも、私ももし買うなら絶対にガソリンエンジンの直6と狙っていた840iだ。
この個体は2020年式、アルピンホワイトのボディに、内装はとてもオシャレなメリノレザーのタルトゥーフォ(茶色)とアイボリーのバイカラー仕様にベージュのアルカンターラのルーフ内装。これだけで欲しくなるくらいカッコいい。
そして足回りはアダプティブMサスペンションだが、上位モデルの850iに標準のアクティブスタビライザー付きのものをオプションで装着されているそうだ。
スタートスイッチを押すと、爆音とかではないが、しっかりとエンジンの始動音は聞こえる。
ステアリングのフィーリングはとても上質。全くフリクションらしいフリクションは無く、一般のクルマと比べると雲泥の差だ。
ボールペンに例えると普通のボールペンと、PILOT社のフリクションボールくらいの差がある(笑)
ステアリングは一昔前のBMWから比べれば軽い部類だが、しっとり滑らかな回転フィールで、路面のザラつきなどは上手くカットしつつも、タイヤの向きや路面の接地感などはしっかりと分かるので、とても安心して握っていられる。
現在のBMWのATは世界一と個人的には思っているが、この8シリーズもとても滑らかに発進する。変速ショックなんて野暮なものは無い。思わず、走り出して数十メートルで「快適!」と声を出してしまうレベルだ。
個人的には以前、試乗した7シリーズよりもこちらの方が個人的には好感が持てるフィーリングで、ノーマルモードで走っていると、本当に超上質なセダンだ。
オーナーさんは、「ノーマルだと普通のクルマみたいでしょ?」と言われるが、全然普通じゃない快適さ、安楽さである。
聞くところによると、このクルマはオーナーさんが後で、ランフラットタイヤから普通のラジアルタイヤ(BMW認証のBS・S007)に変えられているそうだ。
その効果は大きいらしく、低速でのコツコツがなくなり、とても快適になるらしいので、オススメだと言われていた。
BMWの直6といえば「シルキーシックス」と言われ、私のような古い人間にはターボ化される前の自然吸気(NA)エンジンの印象が強い。
今回の840iのエンジンは340ps/5000rpm、トルクは51.0kg・m(500N・m)/1600~4500rpmだ。最初、スペックを一切調べずに試乗したのだが、こんなに低回転からトルクが平坦にあるエンジンとは思わなかったというのが、感想だ。
と、いうのは、もっと伸びやかでNAエンジンのようなフィーリングなのだ。
例えば、ポルシェで言うと991後期や992のターボエンジンは、低回転域からトルクがあり、どこから踏んでも回転が上る前に加速していくような感覚だが、このBMWのエンジンの場合は、さらにNA的な印象で、スペック上では台形型のトルク特性なはずなのに、右肩上がりにトルクが上がるような感じがする。
これはとても新鮮で、ターボらしくないターボエンジンというのは数々経験したつもりではあるが、その中でもこのターボエンジンの自然なフィーリングは特筆モノである。そのくらいよく出来ている。これなら、ターボ嫌いの人でも満足する人が多いのではないだろうか。
そして音はスピーカーからも流れているらしいのだが、そんなことは言われないと全く分からない。スポーツプラスで走ると、車内には本当に心地よい快音が響き、うるさすぎないBMWらしい上品な「クオーン!」という音がとても気分を高揚させる。
ここで思ったのが、なぜターボエンジンにもかかわらず、ここまでNAエンジンのように感じるのか?ということをあらためて考えた時、それはこの音の演出が上手く効いているのだと思う。実際はフラットトルクなのだが、音の演出がとても上手いので、人間の錯覚を上手く利用しているのだと思う。
とはいえ、錯覚だろうが、ギミックの音だろうが、気持ちいいものは気持ちいい。運転している分には何ら不満はなく快感しかなかったことをあらためて言っておく。
またこの時は大人4人乗車でも、その動力性能に一切不満はなかった。十分に速いし、どんな場面でも安全に危険回避、追い抜き、追い越しができる動力性能だと思う。
次のページ→BMW8シリーズグランクーペ、そのハンドリングやパナメーラとの違いは? |
Page: 1 2