レビュー・試乗記

BMW 8シリーズグランクーペ(840i)に試乗|パナメーラとどう違う?

ハンドリングは?

ナチュラルで自然なハンドリング』というのが第一印象だ。しかもコーナーでもかなり粘ってくれて、全く危うさや破綻するような素振りは見せない。結構な横Gがかかっても、この巨体を持て余すことなくしっかりと路面に押し付け、グイグイ曲がっていこうとする。

重心が低くて鼻先も軽く、スッとコーナーに頭が入っていく。これがV8モデルだとどう感じるのか、興味はあるが、少なくともこの直6モデルはワインディングを走るにはとても気持ちがいい。

ポルシェで言うところのPDCC、アクティブスタビライザー付きのMスポーツサスペンションは、ロールを適度に抑えて、少し早めのステアリング操作でもグラっとするようなことは無い。

ロールの少なさだけで言うと、それなりに固めた足回りのスポーツカーと同じように感じるが、サスペンション自体はとてもしなやかなに動き、とてもよく減衰している。この相反する性能を実現しているのはアクティブスタビライザーのお陰であろう。

ここまでワインディングを楽しめるなら、日常の移動以外にも休日のドライブやツーリングも十分に楽しめるクルマだと思う。

そして、一番驚いたのは直進安定性だ。芦有の長いトンネル内はとてもアンジュレーションがキツく、路面がうねっているので、甘い足回りのクルマだとかなり進路を乱される。なので、ここは直進安定性を確認する上では、最適な路面なのだが、このBMWの840iの直進安定性は私が今まで経験した中では、ベストである。

ベスト3とか、そんな曖昧な表現ではない。間違いなくナンバーワンだ。

軽くステアリングに手を添えているだけで、矢のように進む。これほどの直進安定性はなかなか無い。ステアリング操舵感は現代のクルマにありがちな、やや軽めなので、もっとしっかり握っていないと不安な感じに最初は思う。

しかし、これが実際は素晴らしい安定感で、全く路面のうねり等にステアリングを取られることがない。かといって、不自然にクルマが電子制御しているような素振りも感じさせず、ドライバーはただステアリングに手を添えているだけで良い。

これには心底驚いたし、私はこのBMWの最も気に入った点として、このステアリングの操舵フィールを挙げたいと思う。

パナメーラと比べるとどう違う?

エンジンのパワー感については、グレードによって大きく異なるので、今回はあくまでシャシーの味付けや、ハンドリングの感じなどについて述べてみたい。

まず最初に違うと思った点は、ステアリングから伝わる情報量である。パナメーラはもっと路面のザラつきのレベルから伝えてくる。一方で8シリーズは、そこまで細かい情報はあえてフィルタリングして、路面の状態や接地感などのレベルに留めている感はある。

ステアリング特性で比べてみても、パナメーラはもっと路面を身近に感じるソリッドなフィーリングだ。それに比べると8シリーズは、一枚、ドライバーと路面との間に薄い毛布のようなものがある感じはする。なので、乗り心地や上質感は8シリーズの方が全然良いが、もしサーキットなどを走ることを考えると、パナメーラの方が操縦はしやすいと思う。

ちなみに、もしパナメーラのグレードの中で最も8シリーズに乗り味が近しいのはパナメーラのE-ハイブリッドであり、最も遠いのはGTSだと思う。

運転席を自分の運転ポジションでゆとりを持って合わせても後部座席の足元は広い。

あと快適性や居住性でいうと、8シリーズの圧勝だ。

後席はグランクーペと『クーペ』の名前からは想像出来ないほど広く、おそらくパナメーラの後席より広く快適ではないかと思う。それに単純に広いだけでなく、乗り心地もとても良い。さすがに、前席よりはコツコツとするが、それでも十分な快適性は確保されている。

私が後席に座り、ドライバーにはワインディングをそれなりに飛ばしてもらったが、全く変な揺れや不快なGを感じることなく、隣の席の人と落ち着いて会話が出来たことには本当に驚くばかりだ。

パナメーラはあくまでもニュルブルクリンクをいかに早いタイムで周回できるかを目指して開発した『スポーツカー』に出来る限りの快適性を持たせたクルマという印象だが、一方で、8シリーズは『快適なクーペ』に出来る限りのスポーツ性を持たせたクルマのように思う。

目指しているゴールは両車とも同じで、そのゴールには到達しているのだが、アプローチの出発点が違うのでドライバーが感じるフィーリングは違うと思ってもらったら良いのではないだろうか。

総評

これぞ『スポーツクーペ(セダン)』の鑑のようなクルマである。ここまで快適性が高く、かつスポーティーに走れるクルマだとは正直想像していなかった。個人的にラグジュアリークーペを買うなら、メルセデスのSLにしようと今まで思っていたが、ここまで8シリーズの完成度が高いとなると、ちょっと考え直さないといけないレベルだ。

パナメーラほどのソリッド感は不要で、もっと気楽かつ安楽に速いクルマを求めるなら8シリーズの方をオススメする。私がもし仕事などの移動で使うパーソナルカーを選ぶとするなら、真っ先に候補に上がるクルマであることは間違いない。

そのくらい、今回、個人的には惚れ込んでしまったクルマだった。

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