ポルシェ・ケイマン

981ケイマンと718ケイマンは何が違う?それぞれどんな人に向いてる?

先日、718ケイマンの素モデルを代車でお借りしていた。そして、ちょうど一ヶ月ほど前に、981ケイマンの素モデルにも偶然乗る機会を頂いた。

今回、試乗記やレビューというよりも、私が感じるこの98x系の2台の特徴と、何がどう違うのか?ということに焦点を当てて書いてみたいと思う。

718と981のケイマン

正確には718というのは車名であり、開発コードでいうと718は982となる。つまり981と982と表現するのが本来は正しい。

981は2012年に発表され、718(982)は2016年に発表されており、ビッグマイナーチェンジみたいな扱いと思ってもらって良いだろう。外装や内装は基本的な形は踏襲しているものの、細部が異なっており、わかりやすいところで言うとリアのテールランプのデザインだったり、内装のエアコンの吹出口の形状などが異なる。

そして、最も大きな違いはエンジンが大きく異なる。素のベースモデル同士で比較すると、981は2.7LのNA6気筒に対し、718は2Lの4気筒ターボエンジンになっており、もはや性格的にはかなり別物と思ってもらった方が良い。

他にも足回りやシャシーも大きく変更されており、リアのトランスバーストラットの追加や、ショックアブソーバーのピストンとシリンダーチューブの大径化、ステアリングレシオの変更など多岐にわたる。

981と718のそれぞれの乗った印象

あくまでも私の感覚ということを最初に断っておくが、一言で感想とを言うと「柔」の981に、「剛」の718といった感じである。

981の特徴

まず981から話そう。「柔」というと、981は頼りなく、弱々しいイメージかもしれないが、それは誤解である。ここでいう「柔」とは、エンジンの軽やかさ、足回りのしなやかさ、ハンドリングの滑らかさなどを総じて『柔』と表現しているのだ。

2.7LのNA6気筒ボクサーエンジンは、本当に軽やかに回る。これは718とは全然違うフィーリングだ。低回転から、フワッと軽やかにタコメーターの針が上がり、そのまま中回転、高回転へと続く。

エンジン音も速度とエンジン負荷に比例して、音質と音域が高まり、ドライバーはこの上ない気持ちよさを感じる。

スポーツエグゾーストがなくても、バブリング音こそ無いが、かなり気持ちの良い快音を聞かせてくれ、991前期のカレラに近い音だ。

一方で、パワーはそれほど無い。1速で発進してすぐに2速に入れて、グッとアクセルを踏み込んでも、暴力的な加速感みたいなものは期待しない方が良い。もちろん、普通のクルマよりは全然速いが、718と比べると雲泥の差である。

コーナリングは、ステアリングを切り込むとほんの少しタメがあってから、グルンと車体が回り込むように旋回するので、レスポンスが良くないと捉える人もいるかもしれない。しかし、こちらの方が荷重の挙動は掴みやすく操作感は高い。

なので上級者には評価が良いかもしれないが、初心者には、スポーツカーにしては少し物足りないなぁと思われることもあるだろう。

981の醍醐味は軽やかなフィーリングのエンジンに、それに呼応する音と音域、そしてその軽やかさに通じるハンドリング特性。エンジン、パワー、音、ハンドリングのバランスがとてもよく、クルマ全体の調律の素晴らしさが魅力のクルマだと思う。

718の特徴

では718はどうかというと、『剛』という言葉がよく合う。エンジンをかけた瞬間から、エンジン音は野太く、不等長エキゾーストの重低音が力強さを醸し出している。

ノーマルモードだと、ターボラグが多めで素早く加速したい際などに少し間があるが、スポーツモードにしておくとアイドリングが高めでスタンバイしてくれるので、比較的気持ちよく加速できる。

ターボが効き始めると、かなり速い。「速いな!」と多くの人は思うだろう。この速さに関しては981はもはや敵ではない。981で勝負しようとすればS以上で、かつ、高回転域で戦わないと歯が立たないと思う。

それくらいエンジンは力強い。音はV8的な重低音の音質で回転に従いボリュームは上がるが、音質や音階の変化は少なめなだ。まさにこのフラットなトルク曲線をそのまま音に表したような感じなので、トルク感と音のバランスはそういう意味ではとれていると言ってよいだろう。

そしてハンドリングも981より大きく進化している。まず、981と比べるとリアの安定感が半端ない。981はハードなコーナリングをすると、リアが少しムズムズと動き出そうとするが、718はその限界値がかなり高い。なので、普通の人が元気よく飛ばすくらいでは、何も起きず、かなり安定した走りを味あわせてくれる。

これは981に718の部品であるトランスバーストラットを取付ければ、近い動きにはなるが、それでも718の方が一枚上手だ。また高速域での安定感も718の方が優れており、981よりも安心して飛ばせると思う。それにステアリングの応答性も素早く、感覚的には981より1割くらい、レスポンスが良いと思う。

718の醍醐味は、サイボーグ的な高性能さである。誰が乗っても速く走れるし、パワーもハンドリングも分かりやすく、多くの人に凄いと思わせてくれるだろう。

ただし、そのメリットを得た分、981から失っている点もある。それは五感に訴えかけてくるフィーリングだ。

エンジンのトルクやパワーはあるが、ターボラグによる段つきやトルクの谷のようなものをアクセル操作のタイミングによっては感じることがある。

また、981と比べるとエンジンの軽やかさ、音の盛り上がりや官能性という意味では正直物足りないのも事実だ。

981や718はこんな人に向いている

あくまでも私の経験上から導き出した結論ではあるが、981や718はそれぞれこんな人に向いていると思う。全てが当てはまる必要はないが、数多く当てはまるほうが買った後の満足度が高いと思う。

981が向いている人

  • ギアはマニュアル操作でエンジンをブン回して走るのが好きな人
  • クラシックなポルシェにも興味がある人
  • 高音系の粒の揃ったエンジン音が好きな人
  • サーキットよりワインディング派
  • 操作感や自分好みのフィーリングがクルマの楽しさだと感じる方
  • クルマは自分が運転して楽しければよいという考えの方

718が向いている人

  • ギアはクルマ任せで低中回転域で走らせるのが好きな方
  • 最新のポルシェが好きな方
  • 低音系のドロドロした感じのエンジン音が好きな人
  • ワインディングよりサーキット派
  • 速さ、パワーがクルマの楽しさだと感じる方
  • クルマのデザインや、新しさなどを重視される方

もちろん、これ以外にデザインの好みという大きな要素があるので、それは別で考えてもらいたいが、見た目の好みを除けると以上のような点がポイントになるだろう。

現在、中古車市場でも718も981もかなり高騰しており、ちょっと手が出せないくらいの価格帯で推移しているのはご存知の通りである。ただし、981と718でその高騰の理由は大きく異なる。

718が高騰しているメインの理由は、現在、新車がなかなか納車されないためによる供給不足という理由だ。

一方で、981は6気筒NAエンジン、しかも騒音規制前のエンジンという意味合いや、将来の価値向上を見越してという点で高騰している。これは世界の中古車市場を見てもそうなので、おそらく間違いないだろう。

これから981か718を買おうとしている人は、これらの情報を勘案して、よく考えて自分のスタイルや好みに最も合ったケイマンを見つけ出してほしい。この記事がその一助となれば幸いだ。