レビュー・試乗記

弟のフェラーリ GTC4 ルッソTが納車された。ポルシェ乗りの兄が乗るとどう感じるか?

フェラーリ GTC4ルッソTをワインディングで試す

とりあえず、芦有に向かい、まずはハンドリングを試してみる。488などで経験したようなステアリングの切りはじめのクイックさは、かなり抑えられており、軽く走りたい時でも、よりリラックスして走ることができる。

確認してはいないが、おそらくロックトゥロックが488より大きめだと思う。コンフォートモードで走る分には、ロールはややするが、しっかりと踏ん張るところは踏ん張り、スポーティーに流すには丁度よい。

社家郷コーナーからはスポーツモードに入れてみる。GTC4ルッソTの場合、レースモードは無く、このスポーツモードが最もスポーティーなモードになる。ギアが一段落ちて、足回りも固くなるが、乗り心地にほとんど変化は無い。たぶん、助手席に座ってスイッチを変えたことを知らされなければ、この変化に気づく人はほとんど居ないのではないだろうか。そのくらい変化は薄い。

その一方で、コーナーに差し掛かると、その違いはハッキリと分かってくる。ロール量が全然違うのだ。明らかにロールが少なく、コーナーを抜けていくので、コンフォートモードよりも明白に運転しやすい。電子制御系のダンパーはいろいろ経験するが、スポーツにしても乗り心地自体の変化がかなり少ない。この点はこのダンパーの大きな特徴だろう。

ブレーキは当然ながらカーボンセラミックブレーキが付いている。488やその他のフェラーリを経験した時はそこまで思わなかったが、このGTC4ルッソTのブレーキは遊びが少なく感じた。なので、少し慣れが必要で、最初は街中で少しギクシャクしてしまった。慣れてしまえばどうってことないが、この遊びの少なさにカーボンブレーキの強烈な効きは、最初驚く人もいるかもしれない。

エンジンは610PSの最高出力の数値は伊達ではない。回せば圧倒的に速く、かつ、ボディがとても強靭なので、高速域でも全くスピード感や怖さは感じない。一方で同じV8エンジンの488のような、気づいたらレッドゾーンになっていた、的な圧倒的な回転の軽やかさは少し影を潜め、もう少し低中速の扱いやすさに重点を置いている、そんな風に感じた。

スポーツモードで、パドルシフトを試してみる。ハンドル裏に付いた固定式の大きめのパドルを操作し、ギアを2速から3速、4速と上げてみる。すると、現代のクルマでは珍しい大きな変速ショックをドライバーに伝えてくるのだ。これはオートマの性能が悪い、という類のものではなく、明らかに演出としてやっている変速ショックだ。

ギアを上げるたび、こちらが少しビックリするほど、一瞬、トルクが切れ、そして僅かに間を置いていきなりクラッチがつながる。そしてブォン!とひと吠えするのだ。その間、乗員の身体はGで首が揺れ、いかにも『今、ギアを変えたぞ!』と言わんばかりの演出を味合わせてくれる。

昔の走り屋の強化クラッチが付いたマニュアル車で、乗員の乗り心地を考えずに、蹴飛ばすようにクラッチを踏み、素早くシフトを変えて、スパッとクラッチを繋いで変速する、そんなシーンが頭によぎった。ここに、ポルシェとの大きな方向性の違いを感じる。

あくまでもポルシェのPDKなどは、変速スピード命、いかに継ぎ目なくスムーズにトルクを次のギアに伝えるかを徹底的に考え、コンマ1秒でもタイムを削ることを目指している。GT3のPDKなどはその最たる例だ。一方で、フェラーリはやはりエンターテイナーだなと思う。タイム云々も大事だがそれよりも、いかに乗員を楽しませるか、速く感じさせるか、凄いと思わせるかというところのポイントを突いてくる。

クルマにも慣れてきたところで、有馬側からのヒルクライムで少しペースを上げてみる。勾配がキツく道路幅も狭い芦有エッセスを抜け芦有隧道へ抜けるところ、少し踏み込み気味に駆け上がり、トンネルに入っていこうとすると、フロントが軽く左右に振られるような動きを見せる。

馬が言うことを聞かずに首を振っているような動きとでも言おうか、そこで右へ左へとハンドルに微修正を加え、真っ直ぐ走らせようとする。

ここでも私が思う『フェラーリらしさ』を感じる。この道はいろんなクルマで何百回と走っているが、この手の動きは初めてだ。最初、RRの空冷ポルシェの動きと似ているようにも思ったが、それとも少し違う。それよりももっとじゃじゃ馬的な動きで、これも楽しませるためのフェラーリ流のアトラクションの一つなのかもしれない。

フェラーリ好きの弟も、常々『少し危なっかしいところがフェラーリの魅力』と言う。その一端を少し垣間見た気がした。

落ち着いて、さらにハンドリングの特性を分析しながら走ってみる。やはり切りはじめは他のフェラーリよりは穏やかなのだが、途中から急にグッと切り込もうとしたり(オーバーステア傾向)、一方で膨らんで行こうとするような動き(アンダーステア傾向)も時折、垣間見せる。

荷重を意識したり、ステアリングの操作スピードを変えたりと、いろいろ試してはみるが、どういう時に、どちらの性格が顔を覗かせるのかが結局分からなかった。しかし、一つ言えることは、こうやって試行錯誤しながら手懐けるのが難しいところにフェラーリの面白さの本質があるのではないだろうか。

ここもポルシェとの大きな違いだ。ポルシェもRRという特性上、手懐ける面白さはある。ただし、同じ手懐けるでもポルシェの場合はドライビングの基本を忠実に守り、スポーツで言うところの「正しいフォーム」を覚えることで、ある程度は手懐けられるのだ。

一方で、フェラーリは単にドライビングの基本をマスターするだけではダメで、そのクルマの性格や特性を理解した上で、そのクルマ自身にとって正しい指示をドライバーがしてやらないと手懐けられないように感じる。

そこに奥深さがある、人々が惹かれる理由がこの辺りにあるのではないかと思った。

今回、じっくりと乗ってみて、同じ跳ね馬でもマラネロの跳ね馬は、シュトットガルトの跳ね馬とはかなり違うことがあらためてよく分かった。フェラーリとポルシェ、いつも比較されやすい両者だが、それぞれ目指す方向が違い、楽しませる方法が違う。

これは確認したわけではないが、おそらく、メーカーとしてはお互い両者は全く意識していないように感じる。クルマメーカーなら、どちらかの商品を真似たり、近づける、ということよくあるが、この両者はそれを全く思っていないように感じるのだ。どちらも一本の真っ直ぐで強固な哲学を持ったメーカーだ。

どちらが良い悪いというよりも、ドライバーが何を求め、何を目指すかで選ぶ両者だと思う。

個人的な評価

ハンドリング:
(3.5 / 5)
直進安定性:
(4.8 / 5)
低速域の快適性:
(3.7 / 5)
高速域の快適性:
(4.5 / 5)
エンジンフィーリング:
(4.6 / 5)
エンジン音:
(4.7 / 5)
ブレーキ:
(4.6 / 5)
トランスミッション:
(3.0 / 5)
Average:
(4.2 / 5)

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