それから数週間が経ち、販売店からの積極的な進捗報告がないことや、ひと言の謝罪すら無く、なかなか納車されないことにTAKUROさんは苛立ちを覚えていたが、やっと再納車されることになった。
今度は警告灯、メーター、ホイールバランス、シート、そしてガソリン漏れもしっかり修理されていての納車だ。ガソリン漏れはタンク上部にあるパッキンの劣化が原因で、満タンにしないと分からない部分だったそうだ。
やはり、ここまで手を入れた個体でも、中古の空冷ポルシェを買うということは、何らかの不具合は出ると思ったほうがいい。これからクラシックポルシェや空冷ポルシェを買おうとする人は、このくらいの不具合は起こる可能性があるということを覚悟の上で買われる方がいいだろう。
もし私がこれから空冷ポルシェを買う人にアドバイスするなら、不具合が起きるのは仕方ないので、そこはゼロを求めてはいけない。それよりも、その後の対応の真摯さや、やり取りのレスポンスの良さでお店は選んだほうがいい。いつも言っていることだが、中古車はクルマ本体の良し悪しも大事だが、それよりもショップや人を見て買うべきであると思う。
あらためて納車された極上の964は、素晴らしいオーラを放っている。
早速、いつものコースで試させてもらった。
エンジンをかけると、やはり新車のような高い静粛性に驚く。もはや993のような高級感すら感じる。走り出すと、エンジンはとてもトルクフルだ。17インチのホイールは、私の16インチとはかなり乗り味が違い、相当に重厚感がある。
この違いには正直驚いた。私が964を購入したWRPさんは964は16インチと17インチで結構違うと言われていたが、こんなに違うとは思いもしなかった。
16インチは加速からしてとにかく軽快。そしてミズスマシのような車線変更、左右への動きの俊敏さはピカイチだ。一方で、横Gへの踏ん張り感やステアリングのレスポンスは17インチよりは劣る。
17インチは走り出しからやや重く、重厚。実はこの時、993のカレラSにも同時に乗ったのだが、とても993のフィーリングに似ていたことに驚いた。コーナー途中での踏ん張り感は素晴らしく、安定感はとても高い。しかし、リアのグリップが強すぎるような感じがあり、全体的にはややアンダー気味に感じるのも事実だ。
これは以前、E36型のBMW318isに乗っていた時、純正の15インチから16インチに替えた時と同じような感覚だ。今のクルマは1インチ違うくらいではそこまで差は感じないが、当時のクルマはとても影響が大きいことがよく分かった。
エンジンの回転フィーリングはまだ少し固さはあるものの、とても良く回るし力強い。本来の空冷エンジンの『シャーン!』と回るフィーリングはこれからといった感じだが、おそらく、あと1万キロくらい走れば、アタリがついてくるのではないだろうか。
シフトフィーリングも抜群で、気持ちよく入る。今のポルシェからするとやや長めのストロークだが、節度感もしっかりあり、さらに昔のポルシェシンクロのフィーリングではないが、とても好感が持てる。
個人的には2速に入れるのにやや操作の慣れが必要な感じはするが、それも慣れてしまえば問題ない。
サスペンションはビルシュタインが入っていて車高も1~2cm程落ちているので、純正とは少し乗り心地は違う。タイヤの大きさもあり少しコツコツ感は純正より感じるものの、総じて乗り心地は良い。ステアリングの切り始めはよりシャープで、純正ほどフロント荷重を意識しなくても、それなりに曲がってくれる印象だ。
マニュアルでシフト操作して走る964は私にとって、とても新鮮。
ちなみにティプトロニック(AT)との違いを述べると、正直パワー感は全くといっていいくらい変わらない。むしろ、ティプトロの方が遠慮なくアクセルを素早く踏めるし、慣れるとアクセルの踏み込みの早さ一つで自由にギアを上下できるようになるので、こちらの方が速く感じるくらいだ。
とはいえ、タイトな峠などでの速さで言うとギアが5段あるマニュアルに軍配はあがる。特に、ギア比的に2速の加速はマニュアルの方が素早く、タイトコーナーではマニュアルの方が速く走れるだろう。
しかし、964はいくらでも走りたくなる911である。適度に信頼性が高まっているので、精神的にもより安心して乗れるし、快適性も高い。にもかかわらず、本来の911の良さを色濃く残した空冷ポルシェであり、クラシックと新しさのバランスが丁度いい911だと思う。
この試乗の後、自分の964にもあらためて乗ったが、やはりこのクルマは大事に末永く乗りたいと思った。964は名車である。993には無いクラシカルな乗り味を持ちながら、930以前の911には無い新しさを備えた911。それが964だ。
Page: 1 2