ポルシェ・911

ポルシェ911(964)ティプトロニックの運転の仕方

964 ティプトロニック

ここ最近、中古市場の964の値上がりが止まらない。

つい最近、964のティプトロニック(Tip)でさえ1000万円を超えたと話題になったが、なんと1700万円越えの個体まで出てきた。この状況は、もちろん964の人気もあるが、昨今の円安で世界から見れば日本の中古車が割安になったことも原因の一つだろう。

そんな964のティプトロニックは、やはりMT信者からすれば敬遠されることもあるし、稀にバカにされることすらある。

しかし、普段からMTのポルシェに乗り、964のMTも何度も経験がある私から言わせると、「ティプトロニックは面白い」と、声を大にして言いたい。

しかし、その楽しさを味わうには、ちょっとしたコツが要るのでその辺りを今回は紹介したいと思う。

ティプトロニックとは

ポルシェのティプトロニックは、トルコン型のATであり、964に搭載されるものはギヤボックス担当のZF社、電子回路担当のボッシュ社、そしてポルシェの3社の共同開発で作られたものになる。

普通にDレンジで走れば、2速発進でスタートし、変速ショックもほとんどなく、滑らかに加速していく。そのため、拍子抜けするくらいイージーに空冷ポルシェを運転することができ、街中でも渋滞でも現代のクルマのように何も気を遣うことはない。

シフトレバーを右に倒せば、マニュアルモードになり、変速スピードこそ現代のATには負けるが、十分にギアを操作してクルマを走らせる喜びを味あわせてくれる。

ティプトロニックの使い方

しかし、964のティプトロニックの面白さの真骨頂は、このマニュアル操作にあらず。

実は本当の面白さはDレンジにあると言って良い。このティプトロニックというATは「5つのモードを持ち、アクセル開度などから自動的にモードを切り替えて制御してくれる」と技術資料にはあるのだが、この機能を発揮させてこそ、面白さがあるのだ。

具体的には、アクセルワークにその機能を引き出すコツが隠されている。通常のATはアクセルを深く踏み込むとキックダウンする。私も最初の頃は、シフトダウンさせるためにアクセルを深く踏み込むことで加速させていた。

しかし、このATはそれだけでは、シフトダウンしないことが多々あるのだ。

実はこのATはアクセルを踏み込む量やエンジン負荷のパラメーターにもある程度は反応するが、それよりも、アクセルを踏み込む速度が重要なのだ。

例えば、シフトダウンしたい場合は、軽くアクセルも戻してから素早く踏み込んでやると良い。その際、深く踏み込む必要はなく、軽く煽るような感じだ。重要なのは、踏み込み量ではなく、アクセルを操作する速度だ。

すると、手元のマニュアル操作でギアを落とすよりも、はるかに早く、かつシフトショックも少なくシフトチェンジが完了する。

最初は慣れが必要だが、練習するとアクセルワークひとつで自由自在にシフトを操れるようになる。

例えば、カーブに差し掛かった時、ブレーキを踏んでスピードを落としてカーブに侵入。立ち上がる直前にアクセルを軽く煽ってシフトを下げ、そこから猛然とダッシュするというような動きが可能だ。

逆に、ブレーキを踏まずに曲がれるようなコーナーの場合は、事前にアクセルを煽ってシフトダウンしてコーナーに侵入。横Gがある程度かかっていると、コンピューターがシフトアップを抑えてくれるので、そのまま加速体制に入れる。

また、左足ブレーキができる人は、もっと操作の幅が広がる。ブレーキをわずかに残しつつ、アクセルを煽ってシフトダウンするといったこともできるだろう。

高速道路でも、追い抜き時にベタッと普通にアクセルを踏み込むと、このATはイマイチ反応が鈍く、キックダウンしないことも多々ある。しかし、踏み込みスピードを意識して、もっと素早く踏み込んでやると、一気に2速まで落ちて、空冷サウンドを響かせながら怒涛の加速を味合わせてくれるだろう。

このように、スポーツ走行をするには、このアクセルの踏み込み速度というのを意識してやるとよい。

ATを使いこなせ

なお、現代のPDKをはじめとした多くのATもこのような制御になっているので、ご存知の方からすれば、何を今さら、と思われるかもしれないが、このようなATの特性を理解した上で走らせている方は意外と少ない。

今までティプトロニックを体験したことはあるが、普通のATで今ひとつ面白くなかった、という感想を持っていた方や、ティプトロニックのオーナーで面白さが分からないと思われてた方は、ぜひ今回のコツを意識して運転してみてほしい。ティプトロニックに対するイメージが少しは変わるはずだ。