早速、エンジンをかけると、カレラやカレラSのような荒々しいエンジン自体から発するノイズが少ないのが特徴だ。排気音がブオンとひと吠えして、排気音中心の始動音が響き渡る。
PDKをドライブに入れ、650PSの3.8リッターフラット6、ターボエンジンの実力を試してみることにする。アクセルをじわっと踏むと、とても滑らかにクルマは進む。素のカレラの低速域でのトルク感はかなり特筆モノとは思うが、それ以上の扱いやすさだ。
ほんの少しのアクセルの力加減だけで、どうにでもクルマの速度をコントロールできる。先代、991型のターボも低速域のドライバビリティがとても優れていたが、この伝統はしっかりと受け継がれ、992型はさらにコントロールしやすい。
ここがGT3などのGT系との大きな違いだと思う。
GT3などは、アクセルを煽るように踏んで発進し、エンジンの回転の力で進んでいく感じだが、ターボ系は、その全くの逆だ。ストリートでの扱いやすさ、ドライバビリティを重視しているのがとても良くわかる。
この点は同じ911とは思えないくらい性格が違う。
今回のターボSはPASMスポーツサスペンションが搭載されており、車高はノーマルモデルより1cmほど低い。乗り心地は今回は街中を走ったわけではないので、正確なことは申し上げられないが、芦有のワインディングを走る分には快適な部類に入るだろう。
確かに足回りの硬さは感じるが、路面からの入力をしっかりと一瞬で殺しており、衝撃はとても丸められている。素のカレラと硬さ的にはそれほど違いが無いように思うが、一番の違いは、遮音性のように思う。大きめの振動の「ドン!」くる音の周波数がカレラよりも高音域が抑えられているように感じる。
また、カレラからターボSに乗り換えた時は、そんなに違いは分からなかったが、後で自分のカレラに乗り換えると、足回りの路面への追従性がターボSの方が一枚上手だ。もちろん、ホイールのインチの違い、PCCBの有無などもあると思うが、ターボSの方がバタつき感がより少なく、さらに路面にタイヤを押し付けているような印象を強く受けた。
やはり値段なりの高級感、洗練さはある。
スポーツモードに変えて、アクセルをグッと踏み込んでみる。もちろん、全開にはしていないが、それでも怒涛の加速感である。身体にかかるGのレベルが、普段乗る高性能車とは一線を画している。
「あー、これは速いわ!」と想像していた通りの加速感だ。
0-100km/hはカタログ値で2.7秒だが、おそらく今回も他のポルシェの例にもれず、このカタログ値は控えめに確実に出せる値だろう。実際にYoutubeなどで世界のライバルと加速勝負している動画を見ても、911のターボSは世界最強クラスであることは間違いない。
さらにスポーツプラスモードに変えると、フロントの可変式フロントスポイラーのフラップがせり出し、リアウイングが上昇する。ここからは低速でのジェントルさが、いきなりGT系モデルに変身する。標準装備のPDCCがロールを見事に抑え、快適なまま安定しきったコーナリング姿勢で駆け抜けていく。
この時のエグゾーストノートも素晴らしい。このクルマはあえてノーマルエグゾーストを選択されており、ターボ伝統の4本出しのスクエアのマフラーカッターが備わる。このノーマルエグゾーストでも回せば、かなりの音量で室内にしっかりと聴かせてくれる。
ここでもカレラよりもエンジンノイズ部分が抑えられており、気持ちの良い排気音中心の音質でとても心地よい。これだけしっかり聴かせてくれれば、満足できない人はなかなかいないのではないだろうか。
今回、ターボSに乗って思い出したのは、以前所有していたパナメーラターボのことだ。低速では快適でスポーティーなセダンだが、スポーツプラスにしてアクセルを踏み込むと、性格が激変する。とてもセダンとは思えない身のこなしと、すさまじいパワー。
相反する性能をとてつもなく高いレベルで実現していた。
このターボSもそのポルシェの『ターボ』の性格をそのまま受け継いでいた。低速では一切、650PSの片鱗を見せず、ひとたび鞭を入れると、目を見開いた猛獣に豹変する。
ここにポルシェの『ターボ』であることの本質がある。
ポルシェの高性能モデルというと、派手なGT3などのGT系ばかりに目が行きがちだが、実際にGT3を所有している身からすると、一般道における満足度の高さという意味ではターボの方が正直高いと思う。
もちろん、GT3にはGT3の良さがあるのだが、ターボモデルはもっと注目されて良いと思う。もしGT3を買う前の自分に声をかけるなら、「盲目的にGT3に憧れるのではなく、ターボにも目をやりなさい」とアドバイスしたい。
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