ポルシェ911 GT3RS(991型後期)試乗レビュー:究極のストリートレーサー

991.2 GT3RS
レビュー・試乗記

991型GT3RSの印象

991型GT3RSでよく覚えていることがある。

それは991型の前期のGT3RSが出た当時、カーグラフィックTVで松任谷さんがこのクルマをドライブした回のことだ。普段は冷静沈着な評価で知られる松任谷さんが、近年稀に見る満面の笑みでレポートされていた姿が今でも鮮明に記憶に残っている。

「なんていい足なんだ」

その言葉と表情が、このクルマの本質を物語っていた。サーキット専用マシンのような外観を持ちながら、乗り心地まで高次元で成立させているという事実。それが991型GT3RSという存在なのだと、その時から強く印象づけられていた。

991.2 GT3RS

あれから月日が流れ、ようやく試乗の機会を得たのが今回の個体だ。

991.2と呼ばれる後期型のGT3RS。クレヨンのボディカラーに、PCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)の黄色のキャリパーが映える。一見するとヴァイザッハパッケージのように見えるが、実はオーナーの手によって独自のカスタマイズが施されているのだ。フロントを8mm下げたセッティング、イノテック製のマフラーシステム、そして992型GT3RSを彷彿とさせる高い位置のリアウイング。静止していても、その存在感は圧倒的だった。

絶妙なセッティングが生み出すハンドリングの妙

エンジンをかけると、マフラーから迫力のあるサウンドが響き渡る。だが、不思議と社外マフラーにありがちな不快感はない。確かに音量は大きいが、耳障りではない。むしろ心地よく聞いていられる音質なのだ。これがイノテックマフラーの真価なのだろう。
走り出してすぐに感じたのは、車体全体の軽さだ。GT3とGT3RSの馬力差はわずか20馬力程度。体感で明確に区別できるほどのパワー差ではない。むしろ、RSの本質は軽量化とシャシーのセッティングにあるのだと、すぐに理解できた。

991.2 GT3RS

特に印象的だったのが、フロント8mm下げのセッティングがもたらすハンドリング特性だ。

通常、RRレイアウトの911でコーナーを速く駆け抜けるには、意識的にフロント荷重をかけていく必要がある。ところが、このGT3RSは違った。峠道を普通に流すような速度域でも、すでにフロント荷重がかかっているような曲がり方をする。ステアリングを切り込むと、グイグイとノーズが巻き込んでいく。少しオーバーステア気味なハンドリング特性だが、ストリートを流すように走るにはピッタリのセッテイングかもしれない。
ただし、サーキットでフルブレーキングからコーナーに飛び込むような走りをすれば、おそらくリアが流れやすくなるだろう。本気でサーキットを攻めるなら、リアも同様に車高を下げてバランスを取る必要があるかもしれない。

ちなみに、この試乗の当日は私は空冷ポルシェの964で現場に行っていた。その日、このGT3RSを走らせて思ったのは、とても空冷ポルシェの車両特性に近いということだ。やはり同時代のカレラ系よりも、RRを強く意識する場面が多い。特に上り坂や、アクセルを強く踏んだ時にフロントが少し浮くような感覚など、最近の911ではかなり薄まってしまっているRRの感覚が、このGT3RSでは時折顔を覗かせる。こういった所を見ると、生粋の911乗りのための911なのだな、とあらためて感じさせられた。

991.2 GT3RS

足回りとPDKの完成度

GT3とGT3RSを目隠しして乗り比べたら、その違いを明確に言い当てられる自信はない。

しかし、細部に目を向けると、確かな違いが存在していた。最も印象的だったのが、低速域での細かな振動のいなし方だ。私が以前所有していた991後期のGT3ツーリングと比較しても、このGT3RSの足は微振動の吸収が上手い。松任谷さんが絶賛した「いい足」の意味が、理解できた気がした。
決して「めちゃくちゃ乗り心地がいいクルマ」ではない。しかし、GT3系としては、かなり高いレベルで乗り心地を成立させているのだ。

991.2 GT3RSの内装

PDKの完成度も特筆すべきだ。

シフトダウンの際の気持ち良さは格別だ。スパイダーRSやGT4RSにPDKも素晴らしいが、これも勝るとも劣らずだ。4速から3速、3速から2速へと落としていく時、パドルを引くたびにキレッキレのシフトチェンジが決まる。同時に、マフラーから快音が響き渡る。これこそがポルシェのPDKだ。世界中のどのメーカーを探しても、これに勝るトランスミッションは存在しないだろう。
エンジンは淀みなく回る。9000回転まで一気に駆け上がっていくフィーリングは、何度味わっても飽きることがない。イノテックマフラーを装着したこの個体は、低回転域からレーシーなサウンドを響かせる。全回転域で気持ちの良いドライビングができるのだ。

991.2 GT3RS

このクルマが真に輝く場所とは

実際にGT3RSを走らせてみて、改めて考えさせられた。このクルマは、どんな人に向いているのだろうか。

答えは明確だ。サーキットを走る人。これに尽きる。

リアの大型ウイングが生み出すダウンフォースは、峠道では正直なところ体感しにくい。しかし、オーナーによれば、高速道路を走っている時でも、ウイングの高さを変更したことによるダウンフォースの違いを明確に感じるという。サーキットで本気で走れば、その効果は計り知れないはずだ。

991.2 GT3RS

週末にサーキットへ向かい、そこで限界まで攻める。サーキットへの往復路で、少し峠道を楽しむ。あるいは、近所の山道へショートツーリングに出かける。そういった使い方がメインになる人にこそ、GT3RSは最適な選択となるだろう。もう少し日常寄りの立ち位置にあるのが、RSの付かない普通のGT3だ。その微妙なバランスの違いが、GT3とGT3RSを分ける境界線なのだと、今回改めて理解できた。
991型GT3RSは、ポルシェが作り上げた究極のストリートレーサーだ。サーキット性能を極限まで高めながらも、公道での実用性を完全には捨てていない。その絶妙なバランス感覚こそが、このクルマの最大の魅力なのかもしれない。

Hiro

Minaの夫です。 ファッションやステータスシンボルのためにクルマは乗りません。 運転して楽しく、工業製品として優れ、作り手の意思が感じられるようなクルマを...

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