ポルシェとアウディのプラットフォーム共有が加速 — 新CEOが選んだ“現実路線”

ポルシェニュース

新CEOの最初の一手

ミヒャエル・ライタース(Michael Leiters)は、就任後わずか数日でインゴルシュタットに向かった。

2026年1月1日にポルシェAGのCEOとなったライタースは、もともとポルシェで13年以上を過ごし、マカンとカイエンの開発責任者を務めた人物だ。
その後フェラーリのCTO、マクラーレンのCEOを歴任し、外の世界を知った上でポルシェに戻ってきた。VWグループ内の力学を熟知し、かつ外部の視点も持つ男が、就任直後にアウディとの連携強化を打ち出した意味は大きい。背景にあるのは、2025年の営業利益が前年比92%減、営業利益率わずか0.3%という厳しい現実だ。EV戦略の巨額減損約39億ユーロが重くのしかかり、この数字が新CEOをVWとのさらなる連携強化に向かわせたのである。

ミヒャエル・ライタース

プラットフォーム共有の全体像

共有の規模は、かつてないほど広範囲に及ぶ。

まず次世代マカン。現行の電気マカンとは別にICE(内燃機関)モデルが計画されており、アウディQ5と同じPPC(Premium Platform Combustion)プラットフォームを採用する。2028年頃の登場が見込まれ、すでにアウディのボディを纏ったテストカーの目撃情報も出ている。さらに注目すべきはK1だ。カイエンの上に位置する7人乗りSUVとして開発が進むK1は、当初EV専用モデルだったが、アウディQ9とPPCを共有し4.0リッターV8ツインターボや3.0リッターV6を搭載する方向へ大転換した。BMW X7やメルセデス GLSに挑むポジションとなる。

電動側でも協業は進む。次世代アウディTT(コンセプトC)は、ポルシェ718系のEVプラットフォームをベースとし、バッテリーをシート後方に配置することでミッドシップ的な重量配分を実現するという。報道によればライセンス料は約11.5億ドル。目標とする営業利益率10%の回復に向けた、まさに社運を賭けた判断と言っていい。

カイエンの教訓、そして今

ポルシェとアウディのプラットフォーム共有は、今回が初めてではない。

2003年に登場した初代カイエンは、VWトゥアレグと基本骨格を共有して生まれている。後にアウディQ7も同じPL71プラットフォームから派生した。当時は「ポルシェがSUVを作ること自体がブランドの冒涜だ」という激論が社内で交わされたと聞く。しかし蓋を開けてみれば、カイエンはポルシェの屋台骨を支える大ヒットモデルとなった。共有プラットフォームから生まれたクルマが、結果としてポルシェを救ったのだ。

ただし当時は「仕方なく共有した」という色合いが強かった。
今回のライタースの動きは明確に異なる。「積極的に」アウディのプラットフォームを使うという姿勢であり、営業利益率0.3%という現実がかつてのプライドを上書きしたと言えるだろう。

「同じエンジン」ではない

ここからは私自身の経験を交えて書きたい。

以前、ポルシェジャパンのマーケティング担当者から直接聞いた話がある。「エンジンは全く共通ではない。ポルシェ用にしっかりとチューニングを施したものを使っているから安心してほしい」と。一部で「アウディと全く同じエンジンが載っている」という噂があるが、それは明確に違うとのことだった。基本設計を共有しているからといって、同じものがそのまま載るわけではないのである。

新型カイエンのエンジン

私自身、パナメーラに搭載される2.9リッターV6エンジンについて調べたことがある。同じエンジンブロックでも、ポルシェ側では指定オイルの粘度グレードがアウディ仕様とは異なっていた。オイルの粘度はエンジン内部のクリアランスや熱管理の設計思想を反映するものだ。同じブロックであっても、求める回転フィーリングや耐久性へのアプローチが違えば、指定するオイルも変わる。
目に見えない部分にこそ、ポルシェのエンジニアリングが宿っていると感じた。

変わりゆくポルシェの乗り味

ただ、正直に言えば少し心配していることもある。

特にマカンがわかりやすい例だろう。
前期、中期、後期と乗り継いでいくと、モデルチェンジを重ねるごとにアウディっぽい乗り味になってきているのは否めない。カイエンもパナメーラも同様だ。悪い意味ではなく、良い意味でアウディらしい洗練された方向に進化している。ポルシェがもともと持っていた少しクセのあるソリッドな感触、あの路面をダイレクトに伝えてくる硬質なフィーリングは、改良のたびに薄まり、どんどん乗りやすくて高性能なクルマへと変わっていく。

マカンの内装

それをよしとするかは人それぞれだろう。

ポルシェの狙いは明確で、既存のポルシェオーナーだけをターゲットにしているのではなく、ポルシェオーナーの奥様などでも街中で気軽に乗れるクルマへとチューニングを寄せている。その方が評価は高まり、販売台数も伸びる。ビジネスとしては間違いなく正しい判断だ。ただ、個人的にはマカン前期や958以前のカイエン、981や991以前のポルシェのようにステアリングを握ったときに感じた、あの生々しいメカニカルな手応えを知る身としては、一抹の寂しさも覚える。プラットフォーム共有の拡大で次世代マカンやK1がどこまで「ポルシェらしさ」を保てるか。新CEOの手腕が試されるのは、まさにそこだと思う。

Hiro

Minaの夫です。 ファッションやステータスシンボルのためにクルマは乗りません。 運転して楽しく、工業製品として優れ、作り手の意思が感じられるようなクルマを...

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