メルセデス・ベンツ R231 SL400 レビュー前編|アクティブボディコントロールが生み出す魔法の乗り心地
公開日:2025.09.30

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メルセデス・ベンツR231後期型のSL400を購入してから約1ヶ月、走行距離1000キロを超えた時点での詳細なレビューをお届けしたい。
久しぶりにSLという、メルセデスが誇る最高級オープン2シーターに乗って感じたのは、その圧倒的な上質感だった。
なぜSLを選んだのかという経緯は前回お話しした通りだが、実際に乗り始めて最初に驚かされたのは、その並外れた乗り心地の良さだ。これまで数多くのクルマに乗ってきた中でも、このレベルの快適性を実現しているクルマは稀有な存在と言える。
アクティブボディコントロールが生み出す魔法のような乗り心地
R231 SL400に搭載されているABC(アクティブボディコントロール)は、まさにメルセデスの技術力の結晶と呼ぶにふさわしいシステムだ。その後、マジックボディコントロールとして進化を遂げているが、この世代のABCでも十分すぎるほどの性能を発揮する。
このシステムの素晴らしさは、走り出しの瞬間から実感できる。エアサスペンションのような動きを見せるが、実際は油圧を使用したサスペンションシステムなのだ。油圧で四輪の車高を瞬時に調整し、路面の細かな凹凸を驚くほど上手に吸収してくれる。まるでボディが宙に浮いて滑っているような、そんな上質感を味わえる。
我が家のタイカンターボGTに搭載されているポルシェアクティブライドと非常によく似た制御を行うが、最新技術であるアクティブライドの方が揺れの抑制という点では一歩上を行く。しかし、R231が登場したのは10年以上前。その時代にこれほど高度な技術を実用化していたメルセデスの先見性には感服せざるを得ない。
興味深いのは、R231にはスタビライザーが一切装着されていないことだ。全てをアクティブボディコントロールで制御する設計思想は実に大胆である。6Hz以上の高周波振動は従来のダンパーが担当し、5Hz以下の低周波振動は油圧ユニットが吸収する。この巧妙な役割分担により、ターボGTのような完全フラットとは異なる味わいながら、桁違いの乗り心地を実現している。
多彩な走行モードが演出する変幻自在の走り
SL400にはコンフォート、スポーツ、スポーツプラス、そしてカーブモードという4つの走行モードが用意されている。特にカーブモードは秀逸で、コーナリング中に外側の車高を上げることでロール感を大幅に軽減する。ポルシェアクティブライドと同様の制御により、助手席の同乗者に不快な横Gをかけることなく、スムーズなコーナリングが可能だ。
ただし、カーブモードは高速道路などの直線路では若干の揺れが気になることもある。このような場面では、ノーマルのコンフォートモードの方が適している。カーブモードは、まさに峠道を快適に駆け抜けるためのモードと考えるべきだろう。
街中での走行では、コンフォートモードでの2速発進が実に心地良い。R231後期型から採用された9速オートマチックトランスミッションは非常に優秀で、ストップ&ゴーの多い市街地でも滑らかな加速を提供してくれる。この滑らかさは、ポルシェのPDKでは決して味わえない、メルセデス独特のしっとり感だ。
276型エンジンが奏でる絶妙なパワーバランス
SL400に搭載される276型M30エンジンは、当時のAMG C43などにも採用された3リッターV6ツインターボだ。367馬力、最大トルク500Nmという数値は、現代の基準では特別ハイパワーではないが、その分低中速域にしっかりとフォーカスした特性を持つ。
このエンジンの魅力は、現代のエンジンでは味わえない素直なレスポンスにある。昨今のエンジンは燃費効率を追求するあまり、低速域での制御が不自然に感じられることが多い。しかし、276は燃費にも配慮しながら、低速からしっかりとトルクを発生させる理想的なバランスを実現している。
コンフォートモードでは実に大人しく、普通の乗用車のような感覚で運転できる。どんな速度域でも思った通りの加速を提供し、タイムラグも最小限に抑えられている。一方、スポーツモードに切り替えると、このエンジンは豹変する。決して爆音ではないが、SLらしからぬ存在感のあるサウンドを響かせる。
音質は実に上品で、粒の揃った心地良い響きだ。2000-3000回転域を行き来しながら走る際の音色は格別で、本格的なスポーツカーのように高回転まで回す必要がない。この余裕こそが、276エンジンの真骨頂と言えるだろう。スポーツプラスモードではさらに積極的な制御となるが、峠道ではスポーツモードが最適なバランスを提供してくれる。
前期R231のSL500に近いパフォーマンスを持つとされるSL400だが、私が以前所有していたR129よりも確実に速い。R129は5リッターV8の名機のフィーリングを楽しむクルマだったが、実用性という点ではSL400に軍配が上がる。M276エンジンも、まさに名機と呼ぶにふさわしい存在だ。
後編ではオープン時の感想、ハンドリング特性、高速道路での印象などをお伝えしようと思う。
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