ポルシェ 996型 911に試乗|これはもっと見直されるべき名車だ!

996型ポルシェ911
レビュー・試乗記

996型ポルシェ911

当ブログでは初代911から73カレラ、992のGT3にいたるまで、かなりの数の911を体験し、それをレポートしてきたが、なぜか996と997に関してはほとんど記事がない。

996については、一台だけ後期のカレラ4Sのレビューをしているが、足回りとホイールが変わっている個体だったので、オリジナルの状態をレポートしたものではない。

今回、オリジナル状態の程度の良い996前期のカレラ4に試乗する機会を得たので、そのレポートをしたい。

ポルシェのゼニスブルー

996型ポルシェ911の内装

とても珍しいゼニスブルーに彩られた2000年式の個体である。8万キロほど走った個体ではあるが、外装はとても美しい。ボデイにはまだまだ十分に艶があり、内装に関しても経年劣化している部分はあるものの、丁寧に扱われてきたことが分かる状態だ。

発売当時は正直、違和感しか感じなかった涙目のヘッドライトは、今見ると最高にカッコいい。911 GT1を思い起こさせてくれて、個人的にとても好きなデザインである。そして、全幅は1,770mmと、丁度よいサイズだ。

真上から見ると、フロントとリアの先端が絞られており、卵型のようなデザインである。そして、リアのフェンダーの膨らみはとても控えめで、水冷の『ナロー』とも言うべきコンパクトさがたまらない。

996型ポルシェ911の涙目ヘッドライト

996 涙目ヘッドライト

911 GT1を思い起こさせる

996型ポルシェ911

ドアは大きく重いが、閉めた時に993型までの金庫のような音はもうしない。今どきの911と同じように低い音でドアは締まる。シートに腰を下ろすと、とても柔らかでフカフカのシートだ。

空冷時代もポルシェのシートは座面が柔らかめだが、それをさらに大きくして肉厚にしたような感じである。まるでラグジュアリークーペに乗ったかのような座り心地だ。

エンジンをかけると、『ブルーン!』という控えめな音で3.4リッター、300PSを誇るエンジンは目を覚ます。

ティプトロニックのシフトをDレンジに入れ、ゆっくりとスタートする。

これぞ911のハンドリング

走り出しはとてもマイルドだ。サスペンションの当たりはとても柔らかく、極低速ではまるでサルーンのような乗り味だ。少しずつペースをあげていくと、今までサルーンのように柔らかかった足は、徐々に接地感を強めていく。路面をしっかりととらえていることがよく分かる。

大きな段差を超えたりすると、それなりに『ゴトッ!』という音もあり、『あ、やっぱり911だな』と思う。

エンジン音は低回転ではとても静かなのだが、それは室内だけの話。後で発進時の音を外から聞くと、結構いい感じのボリュームで快音を奏でてくれている。足が柔らかい印象があったので、念のため1つ目のカーブへは慎重に侵入する。

996型ポルシェ911

996型ポルシェ911

しかし、そんな心配は不要とすぐに分かった。やっぱり正真正銘、911の足である。柔らかいと感じていた足は、ステアリングを切り、外側に荷重がかかるやいないや、ロールをピタッと止めて、臨戦態勢になる。

さらにトラクションをかけていくと、ステアリングにタイヤがたわむようなグニュっとした感触がリニアに分かる。

まるで、レースシミュレーターの高価なハンドルコントローラー(ステアリング)を使った時のように、リニアに路面状態とクルマへの負荷が分かる。これぞ911である。

さらに、このクルマは四駆のカレラ4である。フロントタイヤが進行方向さえ向けば、ドンとアクセルを踏み込むだけで、何事も無かったかのようにコーナーを脱出する。991のカレラ4GTSや992でも味わう四駆系カレラの挙動と全く同じである。

996型ポルシェ911

ステアリングを切る、適度なロールで荷重がかかり、ピタッとロールが止まり、横方向のGをかけながら曲がり、最後は強烈な縦方向のトラクションで脱出する。この一連の動きが、とてもリズミカルで、走れば走るほどドライバーとクルマの息がピッタリと合ってくる。

クルマがサスペンションとステアリングを通じて、ドライバーにタイミングを教えてくれているかのようだ。これは大げさでもなんでもなく、本当にそういう感覚になる911だ。

楽しくて仕方がない。初めて乗る911なのに、走れば走るほど自分と息が合ってくる。一つのコーナーを上手く抜けると、次のコーナーへの侵入がさらに気持ちよく感じる。この連続するリズムが素晴らしく気持ち良い。

この感覚は現代のサイボーグ的に速い911では、なかなか味わえない。いや、正確に言うと、現代の911でも味わえるのだが、サーキットなどの高い速度域が必要だ。しかし、996は素人がワインディングを楽しむくらいのペースでも十分に楽しませてくれる。そこが大きな魅力の一つである。

ティプトロニックとエンジン

ティプトロニックの変速マナーも素晴らしい。993までのティプトロニックとは大きく異なり、996からは大幅に進化している。さらに変速ショックは少なくなり、とても滑らかだ。特にシフトダウン時のショックはとてもマイルドだし、ハンドルにあるスイッチでマニュアル操作した時の反応もかなり良くなっている。

PDKにこそ変速スピードは負けるが、十分にマニュアル操作でのスポーツ走行が可能であり、一切、楽しくないとは思わなかったことを断言しておく。むしろ、ガンガンアクセルを開けてステアリング操作に集中でき、とても楽しかった。

996型ポルシェ911のティプトロニック

996型ポルシェ911のメーター

ATモードでも素早くアクセルを踏みこむと、キックダウンして瞬時に加速体制になる。エンジンはとてもスムーズであり、高回転域のエンジン音は、素晴らしく快音である。

981や991などの演出されたエンジン音も良いが、純粋なエンジン音が素晴らしい。粒の揃ったまさに『快音』というべき音で、いくら長時間聴いていても飽きないエンジン音である。

エンジンのパワー感は300psということだが、もう少しあるような印象を受けた。とてつもなく速いということはもちろんないが、911として恥ずかしくない加速力とレスポンスだ。体感的に言うと981GTSよりは遅いが、981の素よりは速いくらいの印象だった。

996型ポルシェ911

996は不遇の名車。買うなら今。

さて、この911、実は販売されていた中古車だったのだが、価格は300万円を切る価格だ。(ブログ執筆時には既に売り切れ)

996の値段が安い理由として、その涙目ヘッドライト、インターミディエイトシャフトの破損問題(通称インタミ問題)、6番シリンダー問題が挙げられると言われている。涙目ヘッドライトに関しては好みの問題だが、私は発売時は違和感があったが、今ではとても格好良く思える。

やっと時代がデザインに追いついたというか、今見るとむしろ新しささえ感じるので、一度実物をしっかりと見てみてほしい。

インタミ問題に関しては996前期は発生確率は低いようで、実際、ポルシェ・ジャパンのサービスキャンペーン対象(リコールではない)になっているのは後期からのようだ。また、心配ならその問題の原因となるベアリングを交換してくれるショップも多くあるので、それほど心配しなくていいように思う。

996型ポルシェ911のエンジンルーム

そして6番シリンダー問題だが、発生率は低いものの996や997の一部では6番シリンダーに傷が入り、最終的には異音がして、ピストンの首振りが発生。オーバーホールが必要となるケースがある。しかし、付き合いのあるポルシェショップの情報によると996の3.4Lに関しては発生率はさらに低いそうだ。

私もこの問題はチラホラ聞いたことがある。そんな中で完全な私見ではあるが、低走行車に注意した方が良いと言っておきたい。中古車市場では低走行車は高値で取引される。

しかし、このくらいの年式になると、あまりに低走行なクルマは逆に注意した方が良い。低走行ということは走る機会が少ないか、もしくはちょい乗りが多いかのいずれかだ。

996型ポルシェ911

まず走る機会が少ないということは、長期間の保管中にエンジンオイルはエンジンの中で落ちきってしまい、毎回ドライスタートをすることになる。すると、シリンダーや可動部の摩擦は大きくなりエンジンにとって決して良いことではない。

また、ちょい乗りの多い場合は、特に日本の場合はストップ・アンド・ゴーが多く、2000回転も回さないような状態で走ることになる。すると、十分に冷却水を回すことができず、問題の6番シリンダーを十分に冷やすことができない。

また、逆にエンジンが適温まで温まる前に停止するような距離だと、各部のオイルなどが適温まで上がらず、水分が蒸発せずに溜まる一方でオイルの劣化が早くなるのだ。

なお、ポルシェ・クラシックのファクトリーレストア部門を率いるウーヴェ・マクルツキー氏によると、最低でも月に100kmは走るべきだそうだ。

https://twitter.com/boxster_gts/status/1545211230050168832?s=20&t=ze6XPaeZuxf7G4mku_6CAg

なので、996あたりの中古車を買う場合は、ある程度距離を走っていて、整備記録がしっかりとしたものを買うことを勧める。私なら最低でも5万キロ以上は走っているもので、かつ整備記録がしっかりしたオリジナルの状態の個体を狙うだろう。

幸いなことにこれだけクラシックポルシェが高騰している中、996はまだまだ安い。新車の国産スポーツカーよりも安い値段で、これぞ一流の工業製品と思える素晴らしい上質な走りが楽しめるのだ。もし検討されている方は、良い個体があれば早めに買っておくことをオススメする。買うのは今だ。

Hiro

Minaの夫です。 ファッションやステータスシンボルのためにクルマは乗りません。運転して楽しく、工業製品として優れ、作り手の意思が感じられるようなクルマを好...

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