新型メルセデス・AMG SL43試乗記|なぜ「SL」と名付けた?

メルセデスAMG SL43
レビュー・試乗記

先日、私の弟がメルセデスAMGの新型SL43(R232型)を買った。

SLと言えば、個人的にも大好きな車種であり、若い頃、いつか手に入れたいと思っていた3車種(911、SL、M3)の一つである。実際、R129のSL500に乗っていたし、SLの弟分であるR171のSLK350も所有していたこともある。

本当にメルセデスの中でもSLは大好きで、特別な思い入れがある車種だ。

メルセデスAMG SL43

そんなSLだが、私は今回の新型の発表のニュースを見た時、とても複雑な気持ちになった。今までのSLとは一線を画すデザイン、AMGモデルのみのラインアップ、SL43は4気筒ターボ。

それを聞いて、正直、不安しか感じなかった。

今回、試乗するにあたり、元SLオーナーとしての不安は的中するのか?それとも取り越し苦労に終わるのか?それを確かめるべく、運転席に座った。

メルセデスAMG SL43

エクステリア・インテリア

写真で見るよりずっと格好いい。AMGモンツァグレーマグノという艶消し塗装はとても美しく、この新型のボディにはとても合っている。ただし、このデザインはSLかと言われると、そうは思わない。ぱっと見、AMG GT ロードスターに見間違えてしまう。今までのSLの押し出し感やイカツさをさらに強調したようなデザインだ。

ルーフはバリオルーフではなく、ソフトトップになり、座席も4シーターになっている。

メルセデスAMG SL43

メルセデスAMG SL43

クルマに近づくと、ドアハンドルが自動的にせり出し、ドライバーを迎え入れてくれる。近年では珍しいくらい重いドアを開けて、乗り込んでみると、そこは新型CクラスやSクラスでお馴染みのセンターコンソールに巨大な操作モニターが鎮座するスタイルだ。

運転席周りは乗員を包み込むようにやや湾曲しているので、今までのSLと比べると少し狭さは感じる。

シートはとても座り心地は良いが、SL伝統のラグジュアリーな路線のシートではなく、スポーティーなデザインなので、クッションの厚みなどは薄くなっている。ドアにあるメルセデス伝統の電動シートの調整ボタンはタッチ式になっており、少し操作に慣れが必要だ。

メルセデスAMG SL43のインテリア

メルセデスAMG SL43のシート

後部座席は完全に子供用と割り切ったほうが良いだろう。ポルシェ911とほぼ同じくらいで、完全なエマージェンシー用である。

ちなみに、4シーターになったので、シートを大きく倒して休むことができそうなものだが、弟が言うには、このSLのシートはある程度、背もたれを一定の角度以上に倒すと、座面の方が自動的に前に動いてしまうとのことで、2シーター時代の制御ユニットをそのまま使っているのではないか?と言っていた。

せっかくの4シーターなのに、シートを完全に倒して休めないのが不満だそうだ。

車内の各種機能や設定は、ほぼ全てセンターコンソールにあるタブレット端末のようなモニターで操作する。慣れれば、エアコンやオーディオ、ナビなどは問題ないが、SLの場合、屋根の開閉までもこのタッチパネルで操作しないといけないのだが、それが絶望的に操作性が悪い。

走行中なども開閉は出来るが、スイッチをスライドさせて維持させていないといけない。それをタッチパネル上でやるのはとても難しく、ただでさえタッチの反応が悪い時もある上に、走行中などでは振動で指が離れてしまうこともある。そのため、幌が中途半端な所で止まってしまい、余計に焦って危ない思いをすることになる。

これは運転中でも操作をドライバーに迷わせないというメルセデス伝統の安全第一のポリシーから大きく逸脱しているインターフェースだと思うので、早急に改善してほしいところだ。

SL43の幌の開け閉めスイッチ

この操作性は非常に良くない。走行中など特に画面のタッチを維持するのは困難。

エンジン・ハンドリング

エンジンは最近の騒音規制車の中では勇ましい始動音で目覚める。

Dレンジにシフトを入れて走り出す。「硬っ!」。思わず口に出てしまう。

メルセデスSL

往年の『SL』と思って乗ってはいけない硬さだ。この個体は、ディーラーオプションで21インチホイールを履いているのもあるかもしれないが、それを差し引いても硬い方である。もちろん、さすがにカスタムカーのような品のない突き上げ感こそないが、路面によっては大きくボディは縦に揺れる。正直、低速域ではデートカーとしての用途は難しいのではないだろうか。

ポルシェと比べると、明確に992の方が乗り心地は良い。

メルセデスAMG SL43のエンジン

2リッター四気筒、電動ターボ搭載

さて、まずは鳴り物入りで導入されたF1譲りの電動ターボで武装された2リッターの4気筒エンジンのお手並み拝見だ。アクセルをゆっくりと開けたり、少し早く開けたりして、トルクの出方を確認する。しかし、それ以前の問題がある。

9速ATの『AMGスピードシフトMCT』の制御がひどい。

個体差もあるかもしれないが、1速から2速への変速ショックが激しく、初めてこのSLで『AMGスピードシフトMCT』を導入したかのようなお粗末さである。

いくら丁寧にアクセル操作をしても、1速から2速で『ガクッ』と衝撃を感じる。

さすがに3速以上ではシフトショックは感じなくなるが、これではせっかくの電動ターボのレスポンスを味わうことができない。これは早急にシフト制御プログラムの改善を願うばかりだ。

メルセデスAMG SL43のホイール

街中を抜けて、高速へと向かうが、その途中のインターチェンジのカーブなどで、ハンドリングを試してみる。さすがに足が締め上げられているだけはあり、ハンドリングは素晴らしい。タイヤの接地感もあり、スポーツカーらしいハンドリングで、この身のこなしや運動性能に関しては、さすがAMGといったところだと思う。

それに2リッターの四気筒ということもあり、回頭性がよく、機敏な動きさえ見せる。しかし、ドッシリ感やジワっと路面を舐めるように走る高級感は鳴りを潜めている。

なので、『SL』ではなく、AMGが開発したスポーツカーとして見れば、かなり高得点なハンドリングである。

高速でのフィーリング

高速への合流からスポーツプラスモードにして、アクセルを深く踏み込む。電動ターボはトルク、レスポンスとも十分で、さすがである。パワー感だけ見ると、2リッターの四気筒とは到底思えない。少なくとも高性能な6気筒エンジンのようなパワー感、レスポンスである。

パワーは381psということで、十分に速い。AMGの63などに慣れた人以外は、まず文句は出ない速さだ。ちなみに、私の992カレラカブリオレは385psとほぼ同等だが、体感的には992の方が速い。車重の違いもあるだろうが、それよりもトルクの密度とパワーの伸びが違う。SLのエンジンも十分に素晴らしいが、ある程度の速度からの伸びがやや足りないような印象を受けた。

メルセデスAMG SL43のメーター

メルセデスAMG SL43を運転

高速の安定性は十分以上だ。スピード感も少なく、ここはさすがSL。しかし、幌を閉めていても風切り音とロードノイズは結構入ってくる。車内騒音は992のカレラカブリオレと同等のレベルで、追越車線をリードするような速度域や、トンネル内などであれば助手席の人と会話するのに、少し意識して声のボリュームを上げないといけないレベルである。

ここも、これまでの『SL』とは違い、完全にスポーツカー寄りになっている点だ。

速い速度域で高速コーナーを試す。インからアウトへ、アウトからインへと車線変更をしてみる。SL43は十分以上に速いし、不安な感じは微塵もない。しかし、重箱の隅をつつくと、フロントの頭の動きは俊敏だが、リアの追従性に少し違和感がある。

同じこのカーブを992で走ると、シャシー全体で完全にオンザレール感覚で綺麗な孤を描くように走れるが、SLだと、その孤がややいびつな孤になる。完全な円ではなく、少し角のある円とでも言おうか。これは性能というよりフィーリングの話なので、物理的な速さの優劣ではなく、走りの『気持ちよさ』の点で少し惜しいところがあるように感じた。

総評

弟が言うには、「このクルマはどういう気持で乗っていいのか、分からない」だそうだ。

私も今回、このSLに乗ってみて、その意見に賛同する。『SL』と思って乗れば、スポーティーすぎる。一方でライバルの911などと比較して考えると、そこまで本格的なスポーツカーでもない。どういう立ち位置のクルマなのかがよく分からないのだ。

なので、このクルマに何を期待するかで、評価は大きく変わるクルマだ。少なくとも今までの『SL』を期待した私にとっては、正直、評価は低い。しかし一方で、もっとスポーティーなクルマとして期待して買うと、それなりに高評価だと思う。

メルセデスAMG SL43

メルセデスAMG SL43

途中、助手席の妻と、「このSLは何のクルマに似ているのだろうか?」と会話する中で、思いついた答えは『718ケイマン/ボクスター』である。このSL、ひと言で言うと718を大きくし、高級にしたクルマと思ってもらうといいだろう。エンジンの音やフィーリングは言うまでもなく、スポーツカーとしてサイボーグ的に速いところや、シャシーの剛性感など共通点が多いように思う。

最後に私は開発者に問いたい。「なぜSLと名付けたのか?」と。

ちなみに、もし私がこのクルマを名付けるなら『AMG GT C カブリオレ』と名付けたい。あえて『ロードスター』ではなく『カブリオレ』だ。このイメージを想像して乗る方が、このクルマはしっくりくることが多いように思う。

Hiro

Minaの夫です。 ファッションやステータスシンボルのためにクルマは乗りません。運転して楽しく、工業製品として優れ、作り手の意思が感じられるようなクルマを好...

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  • コメント ( 4 )

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  1. mami

    あー、分かる気がします
    うちにも古いsl 350(2008)ありますが、
    これをSLだと乗ってきた人間からすると
    最新のSLはSLではない気がします。

    なんだろなー
    昔のは
    走るけど優雅さがあったんですよねー
    溜めと間、が良かったんですよねー
    心地よい間(ま)
    職人が作った感、が好きなんですよね

    今の車は「機械とスピード」な感じ
    だからギクシャクが出てくるのかな
    また、春頃出てくる63はどうなんでしょうね

    おっしゃるとおり、GTの名前ならしっくりきたかも
    時代の流れなんですかね

    といろいろ好き勝手言いましたが、
    私はもう古い人間なんでしょうね 汗

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    • HiroHiro

      mamiさん、こんにちは。

      そうなんですよね。
      SLには『溜めと間』!まさにです。

      それが今回のは全然無いんですよ。
      無いのはスポーティーで全然いいんですが、それならGTと名付けて欲しかったですね。
      63や55には私も期待しています。
      また機会があればレポートしますね。

      1
  2. のに

    以前に助手席から苦情のこないポルシェスポーツタイプについてご相談したものです。
    結果的に718ボクスターSに落ち着き、幸い助手席から苦情は来なくなりました。
    なんと、歴代ポルシェで一番乗り心地が良い、との評価です。
    今まで乗ってきたポルシェが知れますね。

    SLは718を高級にした感じ、とのこと。想像が膨らみます。
    しかし、992より乗り心地が悪い、と言うのは由々しき問題ですね。
    SLのイメージはすごく速く、すごく快適、ですから。

    最後に一つ質問です。
    幌の開け閉めの件ですが、
    「ヘイ、メルセデス!幌を開けて!」
    といえば、勝手に開けてくれないのでしょうか?

    • HiroHiro

      のにさん、こんにちは。

      718ボクスターS!おめでとうございます!
      基本的にボクスターは歴代、乗り心地は良いスポーツカーだと思います。
      718はさらに洗練されているので、さぞかし良いのでしょうね。

      SLの乗り心地はなかなかハードでした。
      SLというイメージがあるから、余計にそう思うというのもありますけどね。。

      幌の開閉を音声でやるのは、思いつきませんでした!
      今度、弟に聞いてみますね。

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